「後出し予算超過」が独自開発で60.9%。SaaSの倍になる前に発注側が切る仕様変更の線
「見積どおりで進みます」と言われたのに、途中から追加見積が並び始め、当初予算が静かに崩れていく——その感覚、現場では珍しくありません。株式会社btobeeが2026年7月に発表した中小企業向け調査では、システム導入企業の53.2%が失敗やトラブルを経験し、最多は「後出しの予算超過」40.0%でした。この記事では、独自開発だけが約2倍に跳ねる理由を発注・ディレクションの視点で整理します。
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失敗53.2%の正体は「導入そのもの」より「進行中の制御」
調査は、従業員300人以下の中小企業でITシステムの導入等に関与する経営者・役員300名を対象にしたものです(事前調査は全国の経営者・役員、本調査は2026年7月4日)。何らかのITシステムを導入している企業は47.0%。SaaSの部分利用から独自構築まで、ステージは分かれています。
問題は導入率ではなく、導入後のトラブルです。経験ありは53.2%。トラブル内容(経験なしを除く)の上位は次のとおりです。
項目:後出しのコスト提示による当初予算超過
内容:40.0%(最多)
項目:要件や想定に対する品質・機能の不足
内容:34.7%
項目:スケジュールの大幅遅延
内容:33.3%
「高く見積もられた」より先に、「進めてから増えた」が最多です。一式見積の読み方は別記事でも触れていますが、今日の焦点は押印前の総額ではなく、キックオフ後に仕様変更と追加費用をどう扱うか、という発注側の線引きです。
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SaaS30.8%と独自開発60.9%。同じ「導入」でも計算が違う
同調査では、SaaS層と独自開発層でトラブル割合が大きく分かれます。
1. 後出し予算超過:SaaS層30.8%/独自開発層60.9%(約2倍)
2. スケジュール大幅遅延:SaaS層30.8%/独自開発層39.1%
独自開発は「自社に合わせられる」代わりに、要件定義が複雑になりやすく、進行中の仕様変更が追加費用や遅延を招きやすい、と調査側も整理しています。年間コストの水準も違います。SaaS利用は51.0%が年間50万円未満。一方、独自構築・カスタマイズでは48.8%が年間300万円以上(うち「1000万円以上」が12.2%)です。金額が大きいほど、後出しの痛みも大きくなります。
ここで発注側がやりがちなのは、「とりあえず開発会社に要件を聞けば固まる」という丸投げです。開発会社に丸投げして失敗する話は別記事でも整理していますが、今日はもう一段具体に落とします。独自開発で超過が倍になるのは、ベンダーの悪意というより、発注側に「必須/希望/今回は切る」の優先順位と、「変更が出たときの扱い」が文書化されていないときに起きやすい、という構造です。
根本原因の回答も、同じ方向を向いています。
項目:自社にITの専門知識を持つ人材が不足
内容:33.3%(最多)
項目:経営陣と現場で導入目的が共有されていなかった
内容:29.3%
項目:プロジェクトを統括・進行管理する人材が不在
内容:24.0%
つまり、後出し超過の手前に、「誰が要件の優先順位を決めるか」「誰が変更を止めるか」「経営と現場の成功定義は同じか」が空いている会社が多い、ということです。パートナー選びで最も重視されるのも「予算内に収まる適正なコスト」33.0%。安い見積を探す話に聞こえがちですが、実務では「変更ルールが無い契約」ほど、最終コストが読めなくなります。
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発注側がキックオフ前に切る4本の線
今日やること(3分):次のチェックリストを、いま進行中または次に発注する案件に当てはめ、空欄が2つ以上ならキックオフを1週間遅らせる判断材料にしてください。
- 必須機能と希望機能を分けた一覧がある(全部「必須」になっていない)
- 「今回作らないこと」を1行以上書いている
- 仕様変更が出たときの手順(誰が承認し、費用と納期への影響をいつ提示するか)が契約または覚書にある
- 検収の合格条件が画面や帳票の単位で書かれている(「問題なく動くこと」だけではない)
- 経営の成功指標と現場の使い方の指標が、同じ紙に並んでいる
- 週次で進捗と変更候補を見る進行管理の担当(社内または外部)が名前で決まっている
【小見出し】外部ディレクターが埋める穴
IT人材不足33.3%、進行管理不在24.0%は、採用で一気に埋まらない会社の方が多いです。そのとき選択肢は「社内兼任で我慢する」「開発会社のPMに全部任せる」「発注側の代理人として外部ディレクターを置く」の三つに分かれます。
項目:社内兼任
内容:コストは低いが、本業に押され変更判断が遅れやすい
項目:開発会社のPM任せ
内容:実装は進むが、発注側の優先順位や「切る決断」が弱くなりやすい
項目:外部ディレクター(発注側)
内容:要件の翻訳、変更の線引き、検収の言葉を発注側に残す。開発会社の代わりではない
外部ディレクターに頼むと何が変わるかは別記事でも書いていますが、今日の数字に照らすと役割は明確です。後出し超過を減らすのは値下げ交渉より先に、「変更を変更として扱う手続き」と「経営と現場の目的の一文」です。大分の中小企業では、ひとり情シスや兼任担当が開発会社との窓口になり、会議のたびに仕様が増えるパターンが見えます。増やすたびに見積を更新するルールが無いと、60.9%側に寄ります。
補助金で独自開発やツール導入を急ぐ場合も同じです。補助の上限は「当初予算」を守る動機になりますが、要件が曖昧なまま採択後に作り始めると、補助対象外の追加作業が後出しで積み上がります。制度の期限は別記事で追っていますが、今日は「申請前に変更管理の線があるか」だけ確認してください。
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まとめ:(一言で言うと)
・システム導入失敗の過半数側で、最多トラブルは後出し予算超過40.0%
・独自開発層は60.9%で、SaaS層の約2倍。要件と変更管理の空白が効く
・IT人材不足と目的共有不足が根本。進行管理を名前で置くのが先手
次の一手:今週中に「必須/希望/切る」と「変更の承認者」を1枚に書いてから、開発会社との次の打合せに入る。
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参考:株式会社btobee「中小企業のDX調査」(2026年7月28日発表、本調査2026年7月4日)