開発・ディレクション

「安いベンダーに頼めばいい」は半分だけ。失敗53.2%の根はIT人材不足33.3%と目的共有29.3%

タグ: システム開発 / ディレクション / 外部ディレクター / 要件定義 / 中小企業 / IT担当 / DX

「見積が一番安かったから、そこにお願いしました」——その決め方、現場ではよく聞きます。でも後から増えるのは金額だけではありません。品質不足、遅延、誰も方向を切れないまま進む会議。ITmediaが2026年9月23日に報じた株式会社btobeeの調査では、システム導入企業の53.2%が失敗やトラブルを経験しています。この記事では、トラブルの“表”ではなく、発注側が握るべき根本原因と、パートナー選びのズレを整理します。

—-

失敗53.2%の「表」は予算超過。「根」は発注側の体制

調査は、従業員300人以下の中小企業でITシステムの導入等に関与する経営者・役員300名を対象にしたものです(本調査は2026年7月4日)。何らかのITシステムを導入している企業は47.0%。失敗やトラブルの経験ありは53.2%でした。

トラブル内容(経験なしを除く)の上位は次のとおりです。

項目:後出しのコスト提示による当初予算超過
内容:40.0%(最多)

項目:要件や想定に対する品質・機能の不足
内容:34.7%

項目:スケジュールの大幅遅延
内容:33.3%

後出し予算の線引きは別記事でも触れていますが、今日の焦点はそこではありません。同じ調査が示す「根本的な原因」です。経験者に聞いた上位は、ベンダーの悪評ではなく、自社側の空白でした。

項目:自社にITの専門知識を持つ人材が不足していた
内容:33.3%(最多)

項目:経営陣と現場との間で、システム導入の目的が共有されていなかった
内容:29.3%

項目:プロジェクトを統括・進行管理する人材が不在だった
内容:24.0%

「安く頼んだのに失敗した」と感じやすい場面でも、原因の上位は価格交渉の失敗ではなく、目的のすり合わせと進行管理の不在です。開発会社に丸投げして失敗した会社がやりがちなこと、という別の切り口もありますが、数字が指しているのは発注側のディレクション不足です。

—-

選ぶ基準はコスト33.0%。足りないのは「安いこと」ではない

ここがズレの核心です。今後のパートナー選びで重視するポイント(最大3つ)は、次のとおりでした。

1. 予算内に収まる適正なコスト:33.0%(最多)
2. 自社の業務内容や課題に対する深い理解:20.3%
3. 導入後の手厚いアフターフォロー・定着支援:20.3%
4. 自社に最適なシステムの客観的な選定・提案:18.3%

失敗の根は「IT人材不足」「目的共有不足」「統括不在」なのに、選ぶとき最多なのはコストです。適正な予算管理は当然必要です。ただし、最安値の見積を取るだけでは、33.3%の人材空白も、29.3%の目的ズレも、24.0%の統括空白も埋まりません。

比較で見えるのは、次の役割の違いです。

項目:開発会社(ベンダー)
内容:作る・納品する。仕様が曖昧なほど追加と遅延が増えやすい

項目:発注側の統括(社内PL・外部ディレクター)
内容:目的を固定し、変更を切る。会議の論点を「何を作るか」から「何を捨てるか」に戻す

項目:現場の利用部門
内容:業務の事実を出す。理想の画面より、今の例外処理と紙の流れを言語化する

「安いベンダー」と「伴走できる統括」は同じ買い物ではありません。コスト最優先で前者だけを買うと、後者の空白がそのまま残ります。

—-

発注前に切るのは見積額より「目的・統括・変更の線」

品質・機能不足が34.7%、遅延が33.3%。どちらも、キックオフ後に初めて「何のためのシステムか」が割れると起きやすいパターンです。経営が「効率化」と言い、現場が「今の帳票をそのまま」と期待していると、ベンダーは両方を聞き、仕様は膨らみます。

発注前に、次の3点だけは文書で残してください。長い要件定義書である必要はありません。1枚でも構いません。

目的の1行

何がどう変われば成功か。例:「受注から出荷までの手入力を週あたり○時間減らす」。抽象の「DX推進」は目的にしない。

統括の名前

誰が週次で論点を切るか。社内にIT担当がいないなら、外部ディレクターや進行管理の役割を、開発会社とは別枠で置くかどうかを先に決める。

変更の線

仕様変更は誰が承認し、追加見積の閾値はいくらか。口頭の「少しだけ」を認めない。

独自開発層では後出し予算超過が60.9%まで上がる、という数字もあります。金額が大きいほど、上記3点がないままのキックオフは高くつきます。SaaSの年間コストが50万円未満の会社が51.0%いる一方で、独自構築・カスタマイズでは48.8%が年間300万円以上です。同じ「システム導入」でも、統括の必要量は別物です。

今日やること(3分):次のキックオフ、または見積依頼の前に、下のチェックを口頭ではなくメモに落とす。

  • 「成功の定義」を1行で書けている(効率化・DXなどの抽象語だけになっていない)
  • 経営と現場で、その1行を同じ意味で言える相手がいる
  • 週次の統括担当(社内または外部)の名前が決まっている
  • 開発会社への依頼範囲と、統括・要件整理の範囲が別物だと分かっている
  • 仕様変更の承認者と、追加見積を出す閾値がメモにある
  • 最安値見積だけで最終決定していない(業務理解・定着支援の聞き方も残している)
  • 「品質不足34.7%」「遅延33.3%」を、他人事ではなく自社の検収条件に落としている

このチェックが埋まらないまま契約印を押すと、パートナー選びでコストを重視したつもりが、結果として後出しと機能不足に払うことになります。

—-

まとめ:安い見積は必要条件。足りないのは発注側の軸

・失敗経験53.2%の根本上位は、IT人材不足33.3%、目的共有不足29.3%、統括不在24.0%です。
・なのにパートナー選びの最多は適正コスト33.0%。安いベンダーだけでは空白は埋まりません。
・発注前に切るのは総額の比較より、目的1行・統括の名前・変更の線です。

次の一手は、見積書の最下行を見る前に、成功定義と統括担当を社内で30分だけ固定することです。社内に切れない場合は、開発会社とは別に、要件と進行を整理する壁打ちや外部ディレクションの選択肢を検討してください。

—-
参考:ITmediaビジネスオンライン「『システム入れれば解決』のワナ 中小企業の53%が途中で『失敗』、“後出しコスト”に泣くDXのリアル」(2026年9月23日)、株式会社btobee「中小企業のDX実態調査」(本調査2026年7月4日)