大分の最低賃金、今年は「1月延期」に頼れない。10月発効に社長が今から備えるべき3つのこと
「うちは去年、1月発効まで時間をもらえたから助かった」——そう思っている大分の社長がいたら、少し立ち止まってください。2026年度の最低賃金改定に向けた審議が6月末から本格的に動き出しており、今年は昨年と同じ「発効日の延期」に頼れない可能性が高まっています。
何が起きているのか——2026年度の最低賃金改定スケジュール
2026年6月26日、中央最低賃金審議会の「目安に関する小委員会」第1回が開かれ、2026年度(令和8年度)の最低賃金改定に向けた審議が本格始動しました。これを受けて、大分を含む各都道府県の地方最低賃金審議会も6月末から7月にかけて順次スタートしています。
今回の審議に先立ち、6月23日には中央最低賃金審議会が「論点と考え方の整理」という文書を公表しました。ここで示された方針の中で、大分の中小企業に特に関わるのが「発効日」に関するルールです。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年6月23日 | 中央審議会が論点整理を公表。発効日の大幅な後ろ倒しは「原則不適切」と明記 |
| 2026年6月26日 | 目安小委員会(第1回)開催。審議が本格始動 |
| 2026年7月10日・17日・23日 | 目安小委員会(第2〜4回)で引き上げ額を審議 |
| 2026年7月下旬 | 中央審議会が引き上げ目安額を答申(予定) |
| 2026年8〜9月 | 各都道府県が金額・発効日を審議・公示 |
| 2026年10月〜 | 各都道府県で順次発効(発効日は都道府県により異なる) |
なぜ大分の中小企業に関係するのか——「越年発効」組だったという事実
2025年度、大分県の最低賃金は954円から81円引き上げられ、1,035円になりました。上げ幅そのものも過去最大級でしたが、大分にはもう一つ特徴があります。全国のほとんどの都道府県が10月から12月に発効した中、大分は発効日を2026年1月1日まで遅らせた「越年発効」6県の一つだったという点です。
厚生労働省が越年発効となった秋田・群馬・福島・徳島・熊本・大分の6県で行ったヒアリングでは、後ろ倒しを選んだ主な理由として、賃上げ原資や価格転嫁交渉のための準備期間の確保に加えて、いわゆる「年収の壁」を意識した働き控え対策が挙げられています。年内に発効させると、11〜12月にパート従業員が年収の壁を超えないよう就労時間を調整する動きが強まりかねない、という懸念です。
しかし今回の論点整理では、この「発効日を交渉材料にする」ような運用を見直す方向性が示されました。公示日から30日を経過した日(多くの場合10月初旬)を原則とし、後ろ倒しにする場合は「具体的にどれだけの準備期間が必要か」を労使で十分に議論した上で、その理由を明示すべきだとされています。
| 論点 | 2026年度以降の方向性 |
|---|---|
| 発効日の原則 | 公示日から30日後(多くは10月初旬)が原則 |
| 後ろ倒しの扱い | 「大幅な引き上げ確保のための後ろ倒し」は不適切と明記 |
| 準備期間を理由にする場合 | 具体的な期間の必要性を労使で議論し、理由を公益委員見解等で明示 |
| 大分への影響 | 昨年のような1月発効を前提にした資金繰り・採用計画は立てにくくなる見込み |
日本商工会議所の小林健会頭は6月30日の会見で、2026年度の引き上げ幅について「上げざるを得ない雰囲気はある」としつつも、慎重な検討を求める姿勢を示しています。一方で労働組合側は、大分を含む越年発効6県の最賃近傍労働者の約35%が「賃金上昇が遅れた」と回答したとする調査結果を根拠に、後ろ倒しの是正を求めています。使用者側・労働者側双方の主張がある中でも、「発効日を遅らせて資金繰りの時間を稼ぐ」という昨年の大分のような選択肢は、今年は取りにくくなっている——ここが実務上の一番のポイントです。
社長が今すぐ確認すべき3つのこと
1. 「10月発効」を前提に人件費を試算し直す
昨年は1月発効だったため、実質的に3か月ほど準備期間の余裕がありました。今年は10月前後の発効を前提に、8〜9月中に給与計算・シフト・採用計画を確定させる必要があります。引き上げ幅はまだ未確定ですが、直近数年の傾向を踏まえ、少なくとも数十円単位の引き上げを前提に資金繰りを試算しておくことをおすすめします。
2. 「年収の壁」対策を発効日延期に頼らず別の手段で用意する
昨年の大分の1月発効は、パート従業員の働き控えを避ける狙いもありました。今年は同じ延期が使えない前提で、シフト調整のルール化や、社会保険適用拡大に伴う手当の見直しなど、発効日以外の方法で年収の壁対策を検討しておく必要があります。
3. 業務改善助成金は「交付決定前」の投資が対象外という点を再確認する
最低賃金引き上げに合わせた設備投資(POSレジ、受発注システムなど)を業務改善助成金でカバーしたい場合、交付決定より前に発注・支払いをしてしまうと対象外になります。10月発効から逆算すると、申請準備は遅くとも夏のうちに始めておく必要があります。
今週できるチェックリスト
- 昨年の1,035円を基準に、10月発効を前提とした人件費増加額を試算した
- パート従業員の「年収の壁」対策を、発効日延期以外の方法で検討し始めた
- 設備投資を予定している場合、業務改善助成金の交付決定前に発注していないか確認した
- 大分地方最低賃金審議会の審議状況(大分労働局ホームページ等)を確認する担当者を決めた
中小企業が取るべき選択肢
選択肢A:様子見ではなく試算から入る
正式な金額が決まるのは8〜9月ですが、待っている間に何もしないのはリスクです。現時点の1,035円をベースに、仮に50〜80円引き上げられた場合の年間人件費を試算し、資金繰り表に反映しておく。
選択肢B:価格転嫁の交渉を10月発効から逆算して進める
昨年は1月発効だったため価格転嫁交渉の時間的余裕がありましたが、今年は10月発効が前提になるため、取引先との交渉は夏のうちに着手する必要があります。
選択肢C:助成金・専門家を交えて資金計画を固める
業務改善助成金や賃上げ関連の融資優遇など、活用できる制度は複数あります。何が使えるかを整理してから動くことで、無駄な投資や申請漏れを防げます。
まとめ:「昨年の大分」を基準にしないこと
2025年度の大分は、81円という過去最大級の引き上げ幅と、1月発効という猶予期間の両方を経験しました。しかし2026年度は、引き上げ額の見通しはまだ立たない一方で、発効日の猶予は当てにできないというのが現時点での実務的な見立てです。
「去年と同じように後で考えればいい」という前提は、今年は通用しにくくなっています。正式な答申が出る7月下旬、そして大分県の審議結果が出る8〜9月を待つ前に、10月発効を前提とした試算だけでも今のうちに済ませておくことをおすすめします。
参考:厚生労働省「令和7年度地方最低賃金審議会の審議結果を踏まえた論点と考え方の整理」(2026年6月23日)、日本経済新聞「大分県の最低賃金、81円上げ1035円 2026年1月1日発効」(2025年9月4日)、日本経済新聞「日商・小林会頭、2026年度の最低賃金引き上げ『昨年度並みは疑問』」(2026年6月30日)、寺田税理士・社会保険労務士事務所「2026年度最低賃金の改定動向」(2026年7月2日更新)