「あきらめ廃業」が過去最多。黒字なのに会社をたたむ社長が知らなかったこと
「経営は順調。借金もない。でも、継ぐ人がいない。」
そういう理由だけで会社をたたむ「あきらめ廃業」が、いま深刻化しています。帝国データバンクの調査によれば、2025年に休業・廃業、解散した企業は6万7949件にのぼり、過去10年では2024年に次いで多い件数でした。
この記事では、なぜ黒字企業までが廃業を選ぶのか、そして今、社長が知っておくべき制度の期限について整理します。
「黒字なのに廃業」という不思議な現実
直感的には理解しづらいかもしれません。経営がうまくいっているなら、誰かが引き継げばいいはずです。しかし現実はそうなっていません。
2025年に休廃業・解散した企業のうち、約6割は保有資産の総額が債務を上回っており、黒字だった事例も約5割にのぼると報告されています。つまり、財務的には継続可能な会社の半数近くが、後継者がいないという理由だけで看板を下ろしているのです。
背景にあるのは経営者の高齢化です。休廃業・解散時の経営者年齢は2025年平均で71.5歳となり、過去最高を更新しました。事業承継が進まないまま引退の時期を迎え、たたむことを選ばざるを得ない実態が浮かびます。
なぜ「継がせる」がうまくいかないのか
後継者不在は、単に「子どもがいない」という話だけではありません。中小企業庁の調査では、後継者不在率は2023年時点で54.5%とされ、半数近くの企業で後継者が決まっていない状況が続いています。
よくある背景は次のようなものです。
- 子どもが別の仕事に就いていて、継ぐ意思がない
- 社長自身が「まだ大丈夫」と先延ばしにしてきた
- 従業員に継がせたいが、株式の買い取り資金がない
- 第三者承継(M&A)という選択肢を知らない、または抵抗がある
特に最後の「知らない・抵抗がある」という点は、情報を整理するだけで解決の余地がある部分です。
知っておきたい制度:事業承継税制の期限
ここで、経営者が今すぐ確認すべき重要な期限があります。
事業承継税制とは、後継者が会社の株式や事業用資産を引き継ぐ際にかかる贈与税・相続税の納税を猶予する制度です。特例措置を使えば、納税猶予の対象範囲が拡大され、猶予割合も引き上げられます。
この特例措置の適用を受けるためには、特例承継計画・個人事業承継計画を2026年3月31日までに提出する必要があります。
「まだ承継するかどうか決めていない」という段階でも、計画を提出しておくことで、将来この税制を使う選択肢を残せます。期限を過ぎると、有利な税制が使えなくなる可能性があるため、検討中の方は早めの確認が必要です。
後継者がいない場合の選択肢
子どもや従業員に継がせる人がいない場合も、廃業以外の道があります。
第三者承継(M&A)
社外の第三者に会社を譲渡する方法です。「身売り」というイメージを持たれがちですが、実際には従業員の雇用を守り、技術や顧客基盤を次の世代に引き継ぐ手段として、近年は前向きな選択肢として広がっています。
2026年には、野村ホールディングスや伊藤忠商事などが、従業員による内部承継を支援する新たなファンドを設立するなど、後継者不足に悩む企業を支える仕組みが拡充されつつあります。
公的支援機関への相談
各都道府県に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターでは、M&Aのマッチングや専門家への相談が可能です。後継者人材バンクという制度もあり、外部から経営を引き継ぐ人材を見つける仕組みも用意されています。
「考え始める」タイミングが遅れる本当の理由
事業承継の相談が後回しになる最大の理由は、「まだ先の話」と思ってしまうことです。しかし、承継の準備には数年単位の時間がかかることが一般的です。
- 後継者の選定・育成に時間がかかる
- 株式や資産の整理、税務上の検討が必要
- M&Aであれば、買い手探しから成約まで1〜2年かかることも珍しくない
「70歳を超えたら考える」では遅いケースがほとんどです。50代・60代のうちに、一度立ち止まって考える機会を持つことが重要です。
まとめ:まず「整理して話す」ことから
事業承継は、社長一人で結論を出せる話ではありません。家族、従業員、取引先、それぞれの立場を踏まえながら、何を優先するかを整理していく必要があります。
だからこそ、最初の一歩は「答えを出すこと」ではなく「現状を整理して、誰かに話してみること」です。後継者がいない、決められない、何から考えればいいかわからない——そうした段階からの相談を歓迎しています。
参考:中小企業庁「2025年版中小企業白書」、帝国データバンク調査、日経ビジネス(2026年4月8日)各データ・報道