大分県が無料のDX相談窓口を開設。手ぶらで行くと損をする、相談前の4つの準備
「DXをやらなきゃとは思うが、何から手をつければいいか分からない」——そんな大分の社長に、相談先がひとつ増えました。ただし、使い方を間違えると「いい話を聞いただけ」で終わってしまいます。
大分県が中小企業向け「DX総合支援窓口」を開設
2026年6月23日、大分県は県内の中小企業・小規模事業者向けに「DX総合支援窓口」を開設したことを公表しました。人手不足やデジタル人材の不足に悩む企業に対し、専任のDXコンサルタントが課題の整理から、デジタル化に向けた計画・ロードマップの策定までを一緒に考えてくれる、という内容です。
要点を整理すると、次のようになります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 大分県内に事業所を有する中小企業・小規模事業者など |
| 支援内容 | 専任のDXコンサルタントによる課題整理、計画・ロードマップ策定、ツール導入の後押し |
| 相談方法 | オンライン受付のほか、現地の手続きサポート窓口でも受付 |
| 現地窓口 | 大分銀行コワーキングスペース「ビジカム」(大分市萩原、平日9:00〜17:30) |
| 問い合わせ | 大分県 先端技術挑戦課 先端技術・DX推進班(Tel:097-506-2892) |
| 想定する相談者 | 「何から始めればよいか分からない」「どのITツールを入れればいいか分からない」「誰に相談すればいいか分からない」という方 |
注目したいのは、県が想定する相談者像そのものです。「何から始めればよいか分からない」「誰に相談すればいいか分からない」——これは特殊な悩みではなく、むしろ中小企業の標準的な状態です。県がわざわざ無料窓口を立ち上げたという事実は、それだけ多くの会社が入口で止まっている、という裏返しでもあります。
数字で見ると、迷っているのは「あなただけ」ではない
中小企業基盤整備機構(中小機構)が2026年3月に公表した「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」は、全国の中小企業1万社を対象にした大規模な調査です。ここから、地方の中小企業が置かれている現在地がよく見えます。
調査によると、AIを「全社的に」または「一部の業務で」導入している企業は20.4%で、ようやく2割を超えた段階です。導入を検討している企業(18.6%)と合わせても、前向きな企業は約4割にとどまります。裏を返せば、6割の会社はまだ検討の入口にも立っていない、ということです。
導入が進んでいる部門にも偏りがあります。
| 業務分野 | AI導入率 |
|---|---|
| 総務・管理部門 | 68.3% |
| 営業・販売・サービス部門 | 60.3% |
| 経営・企画部門 | 58.5% |
| 製造・生産部門 | 34.9% |
文書作成やデータ整理が中心の管理系部門では導入が進む一方、現場を持つ製造・生産部門は3割台にとどまります。実際、AIを導入済みの企業でも、最も使われているのは生成AI(82.6%)で、導入目的の最多は「業務効率化・作業時間の短縮」(87.0%)でした。つまり多くの中小企業にとってのDXは、いきなり大規模システムを入れる話ではなく、日々の事務や定型業務を軽くするところから始まっています。
規模による差も鮮明です。東京商工リサーチが2026年4月に発表した調査(有効回答6,327社)では、生成AIを組織的に活用している企業は大企業で59%に達する一方、中小企業は3割程度にとどまりました。同じ「AIを使う」でも、会社の仕組みに組み込めているかどうかで、大企業と中小企業の差が開いています。
そして中小機構の調査が指摘するのが、活用が進まない背景にある「情報不足」です。何ができるのか、自社の何に効くのかが分からない——だからこそ、活用事例などの情報提供が、費用助成と並んで高いニーズになっています。大分県の窓口開設は、この「情報と相談相手の不足」を公的に埋めにきた動きだと捉えると、意味がはっきりします。
無料相談を「ただの雑談」で終わらせない4つの準備
無料で専門家に相談できるのは、率直にいって良い話です。ただし、何の準備もせずに行くと、初回はヒアリングだけで終わり、「とりあえず現状を聞かせてください」の往復で時間を使い切ってしまいがちです。相談を価値あるものにするために、行く前に社内で次の4つを整理しておくことをおすすめします。
1. 相談したい「困りごと」を1つに絞る
「会社全体をDXしたい」という相談は、専門家でも動きにくいテーマです。受発注、在庫管理、請求業務、勤怠、現場の日報——このうち、最も時間・コスト・ストレスがかかっている業務を1つだけ選んでください。入口が具体的なほど、相談の精度は上がります。
2. その業務の「現状」を数字か手順で書き出す
選んだ業務について、「月に何時間かかっているか」「何人が関わっているか」「ミスや手戻りがどれくらい出ているか」をメモします。数字がなければ、作業の手順を箇条書きにするだけでも構いません。これは、ベテランの頭の中だけにある属人化した工程を、外から見える形にする作業でもあります。
3. 既存のデータとツールを棚卸しする
会計ソフト、販売管理、Excel、紙の台帳——いま社内のどこに、どんなデータが、どんな形で残っているかを書き出します。フィジカルな自動化やAI連携の前段として、「使えるデータがどこにあるか」は必ず聞かれるポイントです。
4. 「誰が決めて、誰が動かすか」を先に決めておく
どれだけ良いロードマップができても、社内で決裁し、実行する人がいなければ計画は止まります。窓口は伴走してくれますが、意思決定と実行の主語はあくまで自社です。相談前に「この件は自分が決める」「実務はこの担当が見る」を決めておくと、相談後の動きが格段に速くなります。
相談前チェックリスト
- 相談したい業務を1つに絞った
- その業務の所要時間・人数・ミスの状況を書き出した(または手順を箇条書きにした)
- 社内に残っているデータとツールを棚卸しした
- この件を「決める人」と「動かす人」を社内で決めた
公的窓口が得意なこと、自社で詰めるべきこと
公的な相談窓口は、中立的な立場から幅広く支援してくれる点が大きな強みです。一方で、その立場ゆえに構造的に手が回りにくい領域もあります。最初から役割を分けて考えておくと、期待外れを防げます。
| 公的なDX窓口が得意なこと | 自社・第三者で詰めた方がいいこと |
|---|---|
| 課題整理・ロードマップ策定の壁打ち | 社内の優先順位付けと決裁 |
| 補助金・支援制度の紹介 | 個別ベンダーの相見積もり・中立的な比較 |
| 一般的なツール導入の方向性 | 発注後の進行管理と要件のブレ防止 |
| セミナーなどによる知識提供 | 現場への定着・運用ルールづくり |
公的窓口は「方向を決める」ところまでを支えるのが得意です。一方、特定のベンダーを選定して発注し、開発プロジェクトを毎日伴走させながら現場に定着させる——この「実行の手綱」は、社内のIT担当や、外部のディレクターといった、より近い距離の相手が担う領域です。無料相談で方向性を固め、実行フェーズで誰に手綱を握ってもらうかを別途考える。この二段構えで臨むと、相談が「実際に動く計画」につながります。
まとめ:窓口ができた今こそ、相談の「質」で差がつく
大分県のDX総合支援窓口は、「何から始めればいいか分からない」という、多くの中小企業に共通する悩みに、公的にひとつの答えを用意したものです。無料で専門家に相談できる環境が整ったことは、地方の中小企業にとって素直に追い風といえます。
ただし、機会が等しく開かれたということは、相談の「準備の質」でこそ差がつくということでもあります。困りごとを1つに絞り、現状を数字で見える化し、データとツールを棚卸しし、決める人を決めておく——この4つを済ませてから窓口に向かうだけで、得られるものは大きく変わります。ニュースを読んだ今日のうちに、まずは「相談したい業務を1つ選ぶ」ところから始めてみてください。
参考:大分県「中小企業向けDX総合支援窓口の開設について」(2026年6月23日更新)、独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月)、東京商工リサーチ「生成AIに関するアンケート調査」(2026年4月27日)